SANDBOX の科学 ── 模型の仕組み、限界、授業での使い方
SANDBOX は「粒の集まり」で世界を近似する物理サンドボックス。何を再現していて、何を再現していないかを、先生・保護者・自分で確かめたい人のために書いた。ゲームとして楽しく、同時に「実験の道具」として使えるように設計している。
要点:セルオートマトン(粒の局所規則)+ 粗い格子の流体(圧力と風)+ 熱の伝導・相変化 + 簡単な生態系。単位は「相対値」で、実際の物理量の比を保つことを優先している。低い性能の端末でも動くように、必要に応じて計算を間引く。
1. 設計の考え方:楽しさと実験の両立
- まず眺めて分かる:砂は山になり、水は平らになり、氷は水に浮く。見て分かる現象を最初に置く。
- 見えないものを見る道具:🌡 で温度・圧力・風の場を色で見る。📈 で一点の温度と圧力を、📏 で範囲の中の粒の数(物質ごと)・平均温度・平均圧力を時系列で記録し、CSV に出せる。圧力計は物質として置ける。
- 条件をそろえる:🔬 で昼夜と季節を止め、気温を 20 ℃に固定できる(対照実験)。📖 の物性表に、物質ごとの変化する温度・燃えるか・風の閾値をまとめてある。
- 実験ガイド:20 の実験が「準備 → やること → 起きること」の形で用意され、それぞれに学習のねらいが添えてある。
- 課題:10 の課題が場面と目標を用意する(水を上の器へ・池を凍らせる・蒸気をとじこめる・水を引く・砂丘・鉄球をゴールへ・火を消す・レンガを焼く・ボイラーを 60 秒守る・川で土砂を運ぶ)。達成すると、かかった時間で星。「何をすればいいか」を課題の形で示せるので、授業の課題にも使える。
- 場面の共有:庭を文字列(コード)にして、コピー・貼り付け・リンクで渡せる。先生が作った場面を配る、生徒の結果を集める、といった使い方ができる。サーバーは介さない。
- 再現性:直線・四角・塗りの道具で同じ器を作れる。保存スロットで場面を残せる。
- 現実的でないものは置かない:以前あった「銃」と「弾」は、2026-09-22 に噴射口(圧力で吹く出口)と鉄球(運動量を持つ重い粒)に置き換えた。火薬・ダイナマイトは「急激な燃焼と圧力の波」の教材として残している。
2. 世界の表し方
庭は最大 192×128 の格子。1 マスに 1 種類の物質が入る。物質は次の性質を持つ:
| 性質 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 粉(POWD) | 下と斜め下へ落ちる。安息角ができる。液体より重ければ沈む | 砂・土・土砂・砂利・粘土・雪・灰・石炭・火薬 |
| 液(LIQ) | 落ち、横に広がる。つながった液面は同じ高さになる(連通管) | 水・油・溶岩・蜂蜜・水銀 |
| 気(GASF) | 上へ昇り、風に乗る。密度の順に重なる | 蒸気・煙・メタン・水素 |
| 固体(STAT) | 動かない。熱を伝える(金属は速い) | 石・木・金属・ガラス・氷 |
| 装置 | 周りに働きかける | ヒーター・冷却器・ポンプ・安全弁・圧力計・送風機・噴射口 |
| 生き物 | 食べる・食べられる・育つ・年を取る | 魚・鳥・蛙・蜂・蟻・ミミズ・芋虫・アブラムシ・てんとう虫 |
各マスは、種類のほかに温度・寿命/状態・速度(鉄球など)を持つ。
3. 熱:伝導と状態変化
- 温度はマスごとに持ち、隣り合うマスへ伝導する。金属は速く、木や土は遅い(熱伝導率の違い)。
- 表示の温度は「相対値」を ℃ に換算している:気温の基準(春の朝)を 20 ℃、水の沸点を 100 ℃、氷点を 0 ℃ に合わせた。
- 状態変化:水は 0 ℃以下で氷に、100 ℃で蒸気に。蒸気は冷えた天井で水滴に戻る(凝結)。蝋・砂糖・金属にも融点がある。砂は高温でガラスになる。
- ヒーター・冷却器・炎・溶岩・液体窒素が熱源/冷源。
- 季節と昼夜がある:1 日は 6 分、1 年は 4 日。気温がゆっくり変わり、池は冬に凍り、春に解ける。
4. 気体と圧力、風
4×4 マスをひとつの「格子」として、格子ごとに圧力と風(速度)を持つ粗い流体を解いている。
- 熱い気体や沸騰は圧力を上げる。圧力の傾きが風を作り、風が圧力を運ぶ(拡散と減衰つき)。
- 壁(固体で満ちた格子、または面が塞がれた格子)は風を通さない。閉じた器に熱を加えると圧力が上がり、材料の限界を超えて圧力が続くと壊れる:ガラス 3.5・レンガ 5.5・木 6・石 9・金属 12(厚さ 1 マスのとき。壁は厚いほど強く、厚さ k マスなら 1+0.75×(k−1) 倍。熱い金属は 0.6 倍、石は 0.85 倍、レンガは 0.9 倍に弱る。黒曜石は壊れない)。水の中で沸いて生じた圧力は、水を通り抜けて上の空気にたまる(水は縮まない)。一瞬の爆風では壊れず、限界超えが続いたときに壊れる(応力の蓄積)。
- 水圧:深い水は壁を横から押す。深さが限界(ガラス 18・木 26・レンガ 36・石 60・金属 70)を超えると、下の方から壁が壊れる(ダムの決壊)。
- 閉じたボイラーの蒸気は消えず、熱いあいだは蒸気のまま、冷えると水に戻る(質量の保存)。
- 安全弁は 1.2 を超えると開いて、つながった部屋の圧力を逃がす。圧力計は色で圧力を示す。
- 噴射口は背中側の部屋の圧力が高いときだけ、置いた向きへ吹き出す。吹いた分だけ部屋の圧力は下がる(圧縮した気体が出口から逃げる)。
- 風成運搬:粉は風が「その粉の閾値」を超えると風下へ運ばれる。雪・灰・落ち葉は弱い風で、砂は送風機の近くや爆風で、砂利は爆風だけで動く。山の表面の粒は上を流れる風を受け、風がさえぎられる所に吹きだまり(砂丘)ができる。強い風では 1 歩で数マス跳ぶ(跳躍)。
- 鉄球は速度を持つ粒。風・噴射・爆風で加速し、速ければガラスと氷を割り、石や金属で跳ね返り、鉄球どうしは勢いを分け合う。止まれば転がって落ちる。
- 爆発は「一瞬で大量の気体が生じる」ことを、圧力と風の急な追加で表す。
5. 液体
- 落ちて横に広がる。つながった同じ液体(4 方向)はひとまとまりとして、高い液面から低い液面へ粒を移す──質量は変わらない(連通管・U 字管)。
- 密度の順:水銀 > 蜂蜜 > 水 > 油。氷は水に浮く。
- ポンプは下の液体を上へ送る。深い器の底の穴からは勢いよく噴き出す(水頭)。
- 蒸発・雲・雨で水は循環する。
- 流れる水のはたらき(14 の版):坂を斜めに落ちた水が土・砂・泥の上に着くと、ときどき削って土砂にする(侵食)。土砂は水に触れているあいだ水の粒のように横へ動き、坂では下り側だけが空いているので流れといっしょに下流へ進む(運搬)。水中はゆっくり沈み、底に着いて止まっていれば土にもどる(堆積)。ゆるやかな所や池の底の水は横に走れないので削れず、積もる。砂利は削れない。上流は削れ、下流に積もる、という川の形ができる。
6. 生態系
- 植物は種から育ち、水と土で伸び、葉を落とす。落ち葉と灰はミミズや時間で土に戻る(分解者・物質の循環)。
- 食物連鎖:アブラムシは草を食べ、てんとう虫はアブラムシを食べ、鳥は虫を食べる。芋虫は蝶に、オタマジャクシは蛙になる(変態)。
- 一種が増えすぎると、それを食べる生き物が増えて釣り合う。生き物には寿命がある。
7. 再現していないこと(限界)
- 力学は簡略化している。粒は 1 マス単位で動き、質量・運動量を持つのは鉄球だけ。回転・摩擦・弾性は表現していない。
- 圧力と風は 4×4 の粗い格子で、数値も相対値。実際の気圧(Pa)や風速(m/s)に一対一で対応してはいない。
- 温度の換算は「目安」。比熱や潜熱は簡略化している(融解・蒸発に必要な熱量は現実より小さい)。
- 化学反応は決めた組み合わせだけ(酸と金属、水と電気の分解、火薬の燃焼など)。分子や原子は扱わない。
- 生き物の行動は簡単な規則で、実際の生態の複雑さには遠い。
実験の「傾向」を見るための道具であって、数値を測る計器の代わりにはならない。授業では、模型で予想を立て、本物の実験や資料で確かめる、という使い方を勧める。
実験ごとの記事:圧力の実験(ボイラー・安全弁・レンガの器・ダム・鉄球)、熱の実験(伝導・沸騰・凝結・凍結・ガラス・季節)、風と運動の実験(閾値・砂丘・跳躍・噴射口・爆風)。それぞれ「予想 → 観察 → 数で確かめる → まとめの問い → 模型の限界」の順で書いてある。
8. 授業での使い方
| 実験(🧪 実験ガイド) | 学習のねらい | 関連する単元(目安) |
|---|---|---|
| 水を沸かす | 状態変化・凝結 | 小4「水のすがた」/中1「状態変化」 |
| 水を凍らせる・冬を呼ぶ | 凝固・熱の伝わり方・季節 | 小4「水のすがた」「季節と生物」 |
| 砂をガラスにする | 高温での物質の変化 | 中1「状態変化」 |
| U 字管で水位をそろえる | 連通管・水の圧力 | 中1「圧力」/中3「水圧」 |
| ボイラーを破裂させる・安全弁で防ぐ・レンガの器はどこまで耐える | 気体の圧力と温度・容器の強度(材料の限界)・制御 | 中1「圧力」/中2「気象と大気圧」 |
| ダムを決壊させる | 水圧は深さに比例する | 中1「圧力」/中3「水圧」 |
| 蒸気で鉄球を飛ばす | 圧力差による流れ・運動量 | 中3「運動とエネルギー」 |
| 川で土を運ぶ | 侵食・運搬・堆積(上流と下流) | 小5「流れる水のはたらき」/中1「大地の成り立ち」 |
| 風で砂丘を作る | 風成運搬・堆積 | 小5「流れる水のはたらき」/中1「大地の成り立ち」 |
| 火薬を爆発させる | 急激な燃焼・気体の発生 | 中2「化学変化」 |
| 雨を降らせる | 水の循環 | 小5「天気の変化」/中2「気象」 |
| 水を汲み上げる | 仕事・位置エネルギー | 中3「仕事とエネルギー」 |
| 虫の食物連鎖・落ち葉を土にする・芋虫を蝶にする | 食物連鎖・分解者・変態 | 小6「生物と環境」/中3「生物と環境」 |
| 器を一瞬で作る | 再現性(同じ条件を作る) | 理科の見方・考え方 |
学習指導要領との対応は運営者の目安であり、各校のカリキュラムに合わせて先生が判断してほしい。
すすめ方の例(45 分)
- 導入(5 分):見本「噴射と風洞」を眺める。何が起きているかを言葉にする。
- 予想(10 分):「安全弁を外したらどうなるか」「砂利は風で動くか」を予想し、理由を書く。
- 実験(20 分):実験ガイドの「ボイラーを破裂させる」→「安全弁で破裂を防ぐ」。📈 で圧力を記録し、CSV を表計算に貼ってグラフにする。🔬 で条件を固定し、📏 で「水の粒がどれだけ蒸気になったか」を数で追う。
- まとめ(10 分):模型で見えたことと、本物の実験・資料で確かめたいことを分ける。
9. 低い性能の端末で
- フレームレートが 40 を切ると自動で「軽い」に切り替わる:絵は 2 フレームに 1 回、光の計算なし、流体と熱の計算は 1 歩おき。粒の落下と反応は毎歩のまま。
- 庭の広さは 📐 で変えられる。狭くすれば速い。
- 音は切れる。全画面にもできる。
- SANDBOX は 1 枚のファイルで、実験そのものは外部の通信をしない。外とつながるのは画面の端に出る広告の枠だけで、学校の網で広告が止まっていても実験は動く。
10. 安全と表現
- 血や死体などの表現は意図して置いていない(生き物は年を取ると土に還る)。ただし物質の組み合わせで似た見た目になることはあり、出ないことを保証はしない。
- 銃・弾は置かない(2026-09-22 に廃止)。爆発は「圧力の波」として扱う。
- 登録は不要。運営者は SANDBOX で利用者の情報を集めない(記録は端末の中だけ)。運営費のため、広い画面では画面の右の端(縦長)と道具の帯の上(横長)に広告を出す。広告は別枠(iframe)で動き、庭には重ならない(その分だけ庭が小さくなる)。狭い画面・背の低い窓・全画面のあいだは出さない。
質問・要望はサイトについての窓口へ。授業で使った感想も歓迎する。